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産地とともに育んできた味わいを、 一杯のコーヒーに込めて
UCC ドリップポッドは、多くのお客様に支えられ、2025 年3 月に10 周年を迎えます。この節目を記念し、UCC が農園とともに育んできた特別なコーヒーを限定販売します。この特別なコーヒーセットには、UCC が大切にしてきたコーヒーづくりへの情熱と、産地との歩みが詰まっています。生産者とともに育んできた特別な味わいを、多くの方に楽しんでいただきたいという想いを形にしました。この特別なセットの背景にある産地の取り組みをより深く知るため、産地支援や品種研究を行う「農事調査室」に焦点を当て、室長の中平に話を伺いました。
おいしいコーヒーを未来へ 農事調査室の使命

2004年に設立されたUCC の専門部署である農事調査室では、コーヒー産地の調査・研究、技術支援、品質向上のための取り組みを行っています。中平は2018 年に着任 し、2025年現在で7 年目を迎えます。着任以来、中平は直営農園の品質向上や、新品種の導入、地域農家との協力プロジェクトの推進に尽力。農事調査室の活動は多岐にわたり、単なるコーヒー栽培の管理にとどまらず、世界中のコーヒー愛好家に高品質な一杯を届けるための基盤を築くことにあります。今後も中平は、産地と消費者をつなぐ役割を担い、コーヒーの未来を見据えた挑戦を続けていきます。
伝統を守りながら進化する ブルーマウンテン品質向上への歩み
ジャマイカの地で育むUCCの想い——クレイトンエステートの歴史

Q: UCCが直営農園を持つことになった背景には、どのような想いがあったのでしょうか?
中平:UCCブルーマウンテンコーヒー・クレイトンエステートは、1981年にジャマイカ・ブルーマウンテンエリアの西側に開設されました。これは、創業者・上島忠雄が「コーヒー豆の栽培・収穫を自ら理解しなければ、お客様においしいコーヒーをお届けできない」という信念を持っていたことがきっかけでした。ジャマイカは、コーヒー愛好家にとって特別な“聖地”ともいえる場所。その地に自社農園を持つことは長年の夢であり、それが実現したのがクレイトンエステートの開園です。
ローズヒル農園の可能性を引き出す——環境を活かした品質向上への取り組み

Q:2008年からは隣接するローズヒル農園とも契約し、さらに品質向上を進めているそうですね?
中平:はい。ローズヒル農園は標高1,150mに位置し、「ブルーマウンテンエリア」の指定区域の中でも比較的高地にある農園です。栽培エリアの標高は850~1,150mに及び、急傾斜の土地が多く、50haのうち42haしか植え付けができないほどの厳しい環境にあります。
しかし、この急峻な地形こそが、高品質なコーヒー栽培に適した条件を生み出しているんです。適度な風が吹き、昼夜の寒暖差が大きいため、コーヒーチェリーはゆっくりと成熟し、豊かな甘みとしっかりとした酸味を備えることができます。さらに、午後には海風によって「ブルーマウンテンミスト」と呼ばれる霧が発生し、コーヒーの木を適度に日差しから守りながら、水分を供給する役割も果たします。この環境によって、ブルーマウンテンコーヒーならではのバランスのとれた味わいと、大粒のコーヒーチェリーが育まれます。ローズヒル農園の持つこの特異な環境を活かすことで、より洗練されたブルーマウンテンコーヒーの生産を実現し、高品質な一杯をお届けできると考えています。
Q:素晴らしい環境を最大限に活かすために、着任後どのような取り組みをされてきたのでしょうか?
中平:私が2018年に着任した際、農園の木々は老朽化が進み、生産性の低下が課題となっていました。そこで2019年から現地調査を開始し、2020年から剪定や植え替えを本格化しました。さらに、伝統的なティピカ種(ブルーマウンテンコーヒーの代表的な品種で、繊細な甘みと酸味が特徴)だけでなく、より多様な品種への挑戦として、ゲイシャの試験栽培を開始。2024年からようやく収穫ができるようになりました。また、ナチュラルやハニープロセス(果肉をつけたまま乾燥させることで、甘みやフルーティーさを引き出す精製方法)といった精製方法にも取り組み、さらなる品質向上を目指しています。
ブルーマウンテンブランドの価値を高めていくために

Q:ブルーマウンテンコーヒーの品質向上には、どのような課題があると感じていますか?
中平:ブルーマウンテンコーヒーは、長年高値で取引されてきたため、ジャマイカではスペシャルティコーヒーの概念があまり浸透していません。しかし、中米諸国では技術革新が進んでおり、このままでは競争力を失う可能性があります。現状に満足せず、優れたテロワールを活かしてさらなる品質向上に取り組むことが、ブルーマウンテンの価値を高める鍵になると考えています。
その一環として、UCCでは直営農園単位の品質向上にとどまらず、生産者の意識改革にも積極的に取り組んでいます。2014年からジャマイカ国内でコーヒー品質コンテストを主催し、農機具や肥料の支援を行うことで、より高品質なコーヒーを目指すモチベーションを高めてきました。こうした取り組みを通じて、生産者が品質に対する意識を持ち、技術革新に関心を向けるきっかけをつくることも、私たちの役割の一つだと考えています。私たちは、共に挑戦し成長するパートナーとして、これからも周辺地域の生産者と協力しながら品質向上に取り組むことで、ブルーマブルーマウンテンコーヒーの価値をより一層引き上げていけるよう努めていきます。
究極のバランス——ローズヒル農園のブルーマウンテンコーヒー
Q:ローズヒル農園ならではのブルーマウンテンコーヒーの味わいの特徴について教えてください。
中平:「究極のバランス」と称されるほど、調和のとれた味わいが特徴といえるのが、ブルーマウンテンコーヒーの魅力です。特にローズヒル農園のコーヒーは、酸味と甘みが絶妙に調和し、優雅な香りとしっかりとしたコクが感じられます 。そのため、まずはストレートで味わい、口の中に広がる繊細な風味のバランスを楽しんでいただきたいですね。
過酷な環境で生まれた特別なゲイシャ サンタ・クララ農園での挑戦

「サンタ・クララ農園」との出会い
Q: UCCがサンタ・クララ農園とパートナーシップを結ぶことになった背景には、どのような経緯があったのでしょうか?
中平:2012年頃からスペシャルティコーヒーが日本でも注目され、一部の愛好家を中心にゲイシャの人気が高まりました。しかし、高価で流通量も少なく、一般の方にはなかなか飲む機会がありませんでした。そこで「より多くの人にゲイシャの魅力を届けたい」という想いから、安定供給を目指し、サンタ・クララ農園と協力することになりました。そんなサンタ・クララ農園と手を組むことで、私たちも品質の高いゲイシャを届けられるという確信を持てました。農園主のミゲル氏も「最高のコーヒーを作りたい」という強い信念を持っており、私たちの想いと重なる部分が多かったんです。お互いに同じビジョンを共有しながら、一緒にこの挑戦を進めていけることに大きな期待を感じました。
ゲイシャのための理想の土地 サンタ・クララ農園を選んだ理由

Q:ゲイシャの栽培に適した土地を選ぶ際、どのような条件を重視されたのでしょうか?
中平:ゲイシャの栽培プロジェクトを本格的に始めるにあたり、まずは最適な農園を選定するところからスタートしました。 2015年に現地調査を行い、翌年から20ヘクタールに約10万本を植え付けました。
サンタ・クララ農園を選んだ理由は、その特異な環境にあります。アカテナンゴ山の麓に広がる火山灰の土壌は、ゲイシャの甘みと酸味を引き出し、独特のフルーティーな風味を生み出します。決して優しい環境ではありませんが、この厳しさこそが、唯一無二の味わいを作り出す要因になっています。
また、ゲイシャが評価を高めたパナマ・ボケテ地区と気候や土壌の条件が似ている点も決め手でした。この環境なら、ゲイシャのポテンシャルを最大限に引き出せると確信したのです。
ゲイシャ栽培の難しさ—— 過酷な環境を乗り越えるための工夫

Q:活火山の影響を受けながらの栽培管理は容易ではなかったことが想像できます。どのような工夫を重ねてこられたのでしょうか?
中平:ゲイシャは非常に繊細な品種で、栽培管理が難しい品種です。特にサンタ・クララ農園は活火山フエゴ山の影響を受けており、頻繁に火山灰が降る環境にあります。これにより、葉が傷みやすく、光合成が妨げられることも少なくありません。こうした厳しい環境の中でも品質を維持するために、土壌管理や剪定を徹底し、病害対策を強化しました。また、火山灰の影響を最小限に抑えるため、葉の状態を常にチェックし、適切な施肥や水分管理を行うことで、安定した収量と高品質なコーヒーを確保できるようになりました。その結果、契約から6年後には、20ヘクタールで年間15トンの収穫を実現しています。
多彩な香りが織りなす味わい ——サンタ・クララ農園のゲイシャ

Q:ゲイシャといえば、華やかな香りが特徴の品種ですが、サンタ・クララ農園のゲイシャはさらに多彩なフレーバーが楽しめるそうですね。その特別な味わいの秘密や、農園ならではのこだわりについて教えてください。
中平:一般的なゲイシャは、ジャスミンやアールグレイティーを思わせる華やかな香りが特徴ですが、サンタ・クララ農園のゲイシャは、それに加えて、オレンジやトロピカルフルーツのような多彩なフレーバーが感じられるのが特徴です。その風味を最大限に引き出すため、ウォッシュド製法(収穫後に果肉を取り除き、発酵させることでクリーンな味わいを生む精製方法)を採用し、透明感のある酸味と甘さの余韻を際立たせました。 一口飲めば、明るく透明感のある酸味が広がり、甘さの余韻が心地よく続く。そんなサンタ・クララ農園ならではの特別なテロワールを、ぜひストレートでじっくり味わっていただきたいですね。