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「焙煎」は、コーヒー豆に欠かせない大事な工程。コーヒーの焙煎は奥が深く、焙煎によってコーヒーの味が決まると言ってもいいほどです。
本記事では、焙煎の基本から応用までを幅広く解説していきます。自分で焙煎がしてみたい方にも、焙煎を知って美味しいコーヒーを飲みたい方にも役立つ内容を紹介しています。ぜひ最後までご覧になってくださいね。
コーヒー豆の焙煎とは~焙煎されたコーヒーができるまで~
焙煎(ロースト)とは、コーヒーチェリーの種(生豆)を炒って熱と圧力を加え、香ばしい味と香りを引き出す工程のことです。私達が飲んでいる全てのコーヒー豆には、この「焙煎」の工程が加えられています。

コーヒー豆が焙煎されるまでの流れを簡単に見てみましょう。上の画像のとおり、コーヒーノキになる実「コーヒーチェリー」は熟すと赤い色になります。成熟した実から種子を取り出した後に精製(せいせい)という加工工程を経ます。その後乾燥させてから脱穀をし、「パーチメント」という外皮から生豆を取り出す作業を行います。コーヒーは生豆の状態だと青臭さやエグみが際立ち、熱湯を注いでも美味しく飲むことができません。そこで生豆を専用の機器で「焙煎」していきます。
焙煎を行うと、熱の力でコーヒー豆の成分が化学反応を起こし、コーヒー特有の香ばしい「味わい(フレーバー)」と「香り(アロマ)」が発生します。焙煎は、コーヒーの味や香りが決定する…と言っても過言ではないほど重要な工程です。
コーヒーのプロは、焙煎機を適切な温度や圧力に調整し、焙煎時間を徹底して管理することで、おいしいコーヒー豆に仕上げています。

次に生豆と焙煎後のコーヒー豆を比較してみましょう。

上記画像の左側が「焙煎後」のコーヒー豆、右側の白い方が「焙煎前」の生豆です。色が「艶のある焦げ茶色」で、一粒一粒がぷっくりと膨らんでいるのが焙煎した豆の特徴です。
なお「手網」などの道具を使えば、自宅でもコーヒー豆の焙煎ができます。この記事の中盤で詳しく解説していきますので、自分で焙煎してみたいという方はぜひチャレンジしてみてください。
自宅でできるコーヒー豆の焙煎方法について今すぐ確認したい方は、こちらをクリックしてください。「自家焙煎のやり方を解説!基本的な道具を準備してチャレンジ」
焙煎の段階と味わい・香りの違い
コーヒー豆の焙煎は、短時間で焙煎する「浅炒り」か、長時間じっくりと熱を加える「深炒り」かで味わいや香りが大きく変わります。浅炒りになるほど酸味が強い飲み口になり、深炒りになるほど苦味が強くなる傾向があります。
同じ豆でも、焙煎度合いが違えば味と香りは別物のように変わるため、好みの味を選ぶなら焙煎度合いについて知っておくことが不可欠です。
コーヒー豆の焙煎度合いは8段階
コーヒー豆の焙煎度合は、次の8つの段階に分かれています。各焙煎度合いに応じたおすすめの豆の銘柄の例も示しているので、お手元に生豆がある場合は参考にしてみてください。
焙煎度合い | 名称・色見本 | 味わい・香りの特徴 |
浅炒り | ライトロースト![]() | 酸味が高くコクは少なめで、豆本来の味わいが強く出る。 青さを感じるため、あまり市場には出回らない |
シナモンロースト![]() | 柑橘を思わせる酸味があり、コクや苦みは控えめ。 さっぱりとした味わい。 | |
中炒り | ミディアムロースト![]() | 苦みと酸味のバランスがよいが、やや酸味が勝る。 アメリカンタイプの軽い味わいが特徴。 |
ハイロースト![]() | 苦みと酸味のバランスがよく、まろやかな苦みとコクがある。市販のコーヒーや、喫茶店などで提供されることの多い焙煎度。 | |
深炒り | シティロースト![]() | 香ばしさを感じられる焙煎度で、酸味と苦み・コクが感じられる。ハイローストと同様に、喫茶店などに多い。 |
フルシティロースト![]() | 酸味は少なくなり、ロースト感のある香ばしさや苦みが強く感じられる。 | |
フレンチロースト![]() | 酸味はほとんど感じられず、強い苦みとコクが特徴的。 | |
イタリアンロース![]() | 黒に近い焦げ茶色をしており、かなり強い苦みと濃厚な味わい。エスプレッソに使用される焙煎度。 |
▼焙煎度とおすすめの豆の例
焙煎度 | 浅炒り | 中炒り | 深炒り |
豆の銘柄・産地 | ・ハワイコナ ・エチオピア ・タンザニア ・ケニア | ・グァテマラ ・コロンビア ・タンザニア ・エチオピア | ・ブラジル ・コロンビア ・ベトナム ・インドネシア |
コーヒーの好みと焙煎度の選び方
コーヒーを楽しむシチュエーションや、自分自身の好みに応じた焙煎度の選び方を解説します。
本格コーヒーマシン「ドリップポッド」が展開しているコーヒーカプセルを例にそれぞれの好みにピッタリの銘柄も紹介するので、今後のコーヒー選びの参考にしてみてください。
▼酸味のあるフルーティーなコーヒーが好きな場合:「浅炒り」~「中浅炒り」

軽い味わいのコーヒーが好きな場合は、中浅炒りの「ミディアムロースト」の豆を選ぶのがおすすめです。
例えば「ハワイコナブレンド」はトロピカルフルーツのようなフレーバーがあり、浅炒りならではの透明感ある味わいが楽しめます。
また「モカ&キリマンジァロ」は柑橘やベリー類のフレーバーがあり、華やかで明るい印象のコーヒーです。
▼バランスのとれた苦味とコクのあるコーヒーが好きな場合:「中炒り」~「中深炒り」

酸味が控えめでバランスの良い苦味のあるコーヒーがお好みの方は、「シティロースト」がおすすめです。
シティローストのおすすめは、「ホンジュラス&コロンビア」。甘い余韻とまろやかなコクのバランスが取れた、風味豊かな一杯が楽しめます。
▼しっかりとした苦味とコクのあるコーヒーを楽しみたい場合:「深炒り」

酸味よりも苦味のあるコーヒーが好き。そういう人におすすめなのは「フルシティロースト」や「フレンチロースト」といった深炒りの焙煎度です。
スモーキーなアロマを楽しみたいなら、フルシティローストで焙煎された「炭焼珈琲」がおすすめです。炭焼焙煎によるコク深さと甘い余韻が感じられるコーヒーです。
※画像引用:Product専用カプセル
なぜコーヒー豆を焙煎すると味や香りが変わるの?

コーヒー豆を焙煎すると熱の段階によって様々な化学反応が起こり、香ばしいフレーバーや豊かで複雑なアロマ、酸味などが表れます。
焙煎温度によってコーヒーにどのような反応が表れるのか見てみましょう。
焙煎温度 | 化学反応と味わいの変化 |
100度前後~ | 熱分解が起こってショ糖などが分解され、酸味が増える |
150度前後~ | メイラード反応が起こり、香ばしい香りや旨味が強くなる |
160度前後~ | カラメル化によって、甘苦い風味や香ばしさが増える |
シンプルに言うと、焙煎の初期にはコーヒーの酸味が大きく増加し、焙煎温度を上げるにつれて香ばしさや苦みがアップするということです。
上の表からもわかるとおり、焙煎温度が10度違うだけで起こる反応の種類も変わってきます。コーヒーの魅力を引き出すには、繊細な温度管理による焙煎が求められます。また一度焙煎されたコーヒーは、空気に触れることで急速に劣化し、風味が落ちていきます。美味しさのピークは焙煎後3~5日と言われ、賞味期限は焙煎後およそ2~3週間です。風味を長持ちさせるためには、ジッパー付きの袋に入れて空気を抜き冷蔵または冷凍保存しましょう。
コーヒーの焙煎で生まれるリラックスアロマ「ピラジン類」
コーヒーの香気成分の中には、ナッツやチョコレートのような香り成分「ピラジン類」があります。これは焙煎によって生まれる香り成分で、脳をリラックスさせる効果があります。
焙煎されたコーヒーの豊かな香りには、心に嬉しい効果も期待できるのです。
自家焙煎のやり方を解説!基本的な道具を準備してチャレンジ

炒りたてコーヒーならではの芳醇な香りが楽しめる「自家焙煎」にチャレンジしてみませんか?コツを掴めば、自分の好みの味わいに焙煎することもできますよ。キャンプやバーベキューなど、アウトドアの場で楽しむのもおすすめです。
専用の焙煎機を使用する方法もありますが、焙煎機は家庭用のものでも1万円前後の費用がかかります。今回は、お手頃な価格で用意できる「手網」を使った自家焙煎の方法を解説し
▼用意するもの
- ●焙煎用の手編み
- ●コーヒーの生豆
- ●軍手
- ●直火コンロ(IHコンロは不可)
- ●冷風が出るドライヤー
- ●ザル
手網はコーヒー専用のものでなくても問題ありません。ご家庭にない場合は、ホームセンターやキッチン用品店などを探せば手に入ります。
▼手網を使ったコーヒー豆焙煎手順
手順 | ポイント |
①コーヒーの生豆を手網に入れ、手網の蓋をクリップなどで固定します。 | 弾けた豆でやけどするのを防ぐため、必ず軍手をして作業します。 |
②コンロを中火に設定し、火から10~15センチ程度の場所で手網を左右に揺すります。 | 手網は常に火から水平に保つようにしてください。 |
③炒りムラができないように、揺する手を止めずに火にかけ続けます。 | リズミカルに手を揺すり、まんべんなく火を通します。 |
④10分ほどで、豆がパチパチと弾ける「1爆ぜ(ハゼ)」が起こります。この時点でコーヒーの焙煎度は浅炒りから中炒り程度です。「1爆ぜ(ハゼ)」の音が鳴り止んだタイミングが、中炒りです。 | 酸味の強い「浅炒り」コーヒーが好きな場合、色を見つつこの段階で火を止め、6.の工程に移りましょう。 |
⑤④から3~5分ほど経過すると、「2爆ぜ」が起こります。パチパチ・チリチリといった高めの音が特徴です。 2爆ぜの段階で、コーヒーの焙煎度は中炒り~深炒りになります。 | 「中炒り」以上の焙煎度になるため、豆の色や香りを確認して好みの焙煎度で火を止めましょう。 |
⑥素早くザルにあけてすぐに冷風のドライヤーを当て、コーヒー豆を冷まします。 | 予熱でも焙煎は進んでしまうので、急いで冷風を当てることが大切です。 |
実際の色や音を確認したい場合、以下の動画もチェックしてみましょう。
コーヒーを自家焙煎するうえでの注意点
自家焙煎にチャレンジする場合、次の3つのポイントに注意しましょう。
- ①屋内で行う場合は換気扇を最大にして、換気扇の真下で焙煎する
- ②コーヒーの薄皮「チャフ」が周囲に飛び散ることを考慮しておく
- ③手網がない場合はフライパンでも焙煎できるが、焦げやすくチャフが飛びやすい
チャフの飛び散りを避けたい場合は、屋外で焙煎するのもひとつの方法です。ただし、周囲の迷惑にならないよう風のない日を選んで行いましょう。
コーヒーのプロはどうやって焙煎している?

コーヒーメーカーや自家焙煎しているコーヒーショップでは、大型の業務用焙煎機を用いて生豆の焙煎を行っています。焙煎機には「直火式」「半熱風式」「熱風式」の3タイプがあり、それぞれ特徴が異なります。
焙煎機のタイプ | 特徴 |
直火式 | 直接豆に火を当てて焙煎する方法。焼きムラが起こりやすいため扱いには技術が必要だが、香ばしくメリハリのある味わいになる。 |
半熱風式 | 加熱された鉄板の熱と、送り込まれる熱風の両方で焙煎する方法。柔らかな味わいになる。 |
熱風式 | 高温の熱風を送り込むことで焙煎する方法。ムラができにくく、クリーンな味わいになる。 |
焙煎には「職人の技術が必要」だとも言われ、その日の気温や湿度、生豆の状態など様々な要素を考慮しながら進められます。たった数度の加熱温度の違いでも味わいは変わるため、どの段階で焙煎を止めるかは焙煎士のセンスが問われます。
コーヒー焙煎のプロ達は経験や焙煎データ、技術を駆使して、豆の味わいを最大限引き出す焙煎を行っているのです。
生豆の焙煎をプロに頼むには?
プロの焙煎士が焙煎したコーヒー豆を楽しみたいなら、コーヒー焙煎を専門におこなっている「ロースター」や、自家焙煎しているコーヒーショップなどを探してみましょう。中には、持ち込んだ生豆を好みの焙煎度合いで焙煎してくれるショップもあります。
焙煎のみを依頼できるショップは、公式ホームページなどで「委託焙煎」の表記があることが多いです。すべてのコーヒーショップが委託焙煎に対応しているわけではないため、手元に生豆がある場合は事前に確認してから持ち込むようにしましょう。
まとめ|焙煎について知るとコーヒーはもっと楽しい
コーヒーにとって欠かせない焙煎という工程。温度や時間を管理して焙煎度合いをコントロールすることで、コーヒーの風味は大きく変わります。
強い酸味を感じたければ「浅炒り」を、深みや苦みを感じたければ「深炒り」のコーヒー豆を選べば、好みの味わいに辿り着けるはずです。さらにこだわりたい方は、自家焙煎で自分好みの焙煎度を追求してみるのも楽しいですよ。
焙煎はとても奥深い世界です。コーヒー焙煎のプロたちは、それぞれ独自のこだわりと誇りを持って焙煎を行っています。「焙煎」に注目してコーヒー選びをすることで、普段のカフェタイムがより一層楽しくなること間違いなしですよ。